鼓
鼓さん (8whh8cec)2023/10/31 22:08 (No.77354)削除『どうして手袋をしているの?』優しくしてくれるお姉さんに聞かれた。ボクが1番触れてほしくなかった所。絶対に聞かれたくなかった所。お姉さんを見つめる目が揺れる。いつもは優しく弧を描くお姉さんの瞳が真っ直ぐにボクを見据えていて恐ろしい。まるで逃がさない、と言われているみたいだ。『あ、愛してもらえないから』。声が震えた。お姉さんは不思議そうに首を傾げる。その顔は先程までの恐ろしいものではなく、本当に不思議そうに眉根を下げている。『…こんなに汚い手をしていたら誰も愛してくれないでしょ!?』手袋を取ってお姉さんの前に両手を突き出す。お姉さんはそれを見て驚いた顔をしたあと悲しそうな顔をした。…いつもそうだ。ボクの手を見た人はみんな哀れみの目でボクを見る。このお姉さんもそう。俯いた頭が上がらない。お姉さんの顔を見たくない。だって、みんな次には辛かったね、大変だったね、って言うから。『…そう。でも、それとこれとは別じゃない?』お姉さんの言葉に驚いた。お姉さんの顔を見ればお姉さんはいつものように優しく微笑んでいた。『キミがどんな経験をして生きてきたかは分からないけど、少なくともぼくはこの手を愛おしく思うよ』お姉さんは優しくボクの手を撫でた。優しく優しく、まるで宝物を触るかのように。そんなことを言われたのは初めてだった。みんな、哀れむか引いていた。ボクの手に残された大小細かな傷跡。その中でも一際目を引く大きな傷。みんなそれを見て一気に態度を変えていた。『出来ることなら治してあげたかったな』小さく呟かれたその言葉についにボクの涙腺は限界を迎えた。